1.デカルトについて

 デカルトは激動の17世紀ヨーロッパに生きたフランス人で、近代合理主義の礎を築いた哲学者です。また、X軸・Y軸を考えついて、私たちが中学校で習う代数幾何学の分野をまるっと作った人でもあります。

 彼は主著『方法序説』のなかで、「われ思う、ゆえに我あり」というキーワードを使って、学問の考え方の土台をすっかり取り替える作業を試みます。とくに自然科学の思想的な根拠や方法論を模索し、不正確なものやフィクションを排除して、個人の心が明確に真理と認めるもののみで科学知のすべてを体系化し直し、そして子々孫々学問を発展させようと計画しました。

 彼が追いかけた学問の領域は、数学、音楽、医学、解剖学、光学、気象学、物理学や、いまでいう心理学、精神医学、哲学など多岐にわたりますが、著作はそれほど多くありません。わずか数冊の本が、その後のヨーロッパ文明、ひいては世界中に絶大な影響を与え続けていくことになります。

  諸外国を旅したり、オランダに隠れ住みながら研究と執筆の日々を送ったデカルトですが、彼の著作と思想は発表当初から激しい賛否両論にさらされました。21世紀現在もそれは続いていて、哲学史の中央にそびえながらも、まるで新しい知のたたき台としての役割を担っているかのようです。
Rene' Descartes/ルネ・デカルト (1596-1650)